福岡地裁、取材対応を理由とした解雇は濫用と判断
2023/04/12 労務法務, 労働法全般
はじめに
新聞社の取材に応じたことなどを理由に、福岡県久留米市の社会福祉法人が、同法人が運営する保育所の園長を解雇していた問題で、福岡地裁久留米支部が月32万4600円の賃金の仮払いを命じていたことがわかりました。解雇権の濫用とのことです。今回は解雇と解雇権濫用について見ていきます。
事案の概要
西日本新聞の報道によりますと、福岡県久留米市で認可保育所を運営する社会福祉法人の理事長が理事会に諮ることなく兵庫県の企業の女性社員を後任理事長に推す方向で仲介業者と話を進めていた問題で、保護者など3000人余りから市に事実確認を求める嘆願書が提出されていたとされます。この問題で同法人運営の保育所の園長が西日本新聞の取材に応じたところ、臨時の理事会で同園長の解雇が決定され通知書が手渡されたとのことです。通知書には複数の解雇理由が記載され、その一つに勤務時間中に新聞記者を園内に入れて取材に応じた旨が記載されていたとされます。園長は地位保全や賃金支払いを求める仮処分を地裁久留米支部に申し立てておりました。
解雇の種類
解雇は大きく分けて、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の三種類が存在します。普通解雇はいわゆる労働者の債務不履行に基づく解雇と言われ、能力不足や成績不良、傷病や精神障害による労働能力の低下、職務懈怠、勤怠不良、職場規律違反や不正行為、業務命令違反などによる解雇を指します。懲戒解雇は労働者が会社の秩序を乱す行為を行ったことに対する懲戒処分としての解雇を言います。窃盗や横領といった犯罪行為や、セクハラ・パワハラ、継続的な業務命令拒否などが典型例と言えます。これらに対し整理解雇はもっぱら会社の経営不振などを理由とするもので、労働者自身に解雇の理由が無いことが特徴と言えます。以下普通解雇と懲戒解雇の要件について見ていきます。
普通解雇の要件
労働契約法16条によりますと、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」としております。これは従来判例(最小判昭和52年1月31日)で確立していたいわゆる解雇権濫用法理で、平成15年の労基法改正、平成19年の労働契約法制定の際に条文化されました。客観的に合理的な理由とは、傷病などによる能力低下や喪失、適格性の欠如、規律違反行為など上で述べたような解雇理由は概ね該当すると言えます。そして社会通念上の相当性とは、労働者のそれまでの処分歴や情状、他の労働者の処分例との均衡など、解雇の理由となっている事由に照らして処分が妥当であるかを言います。さらに手続き上の要件として、就業規則の記載(労基法89条)や解雇30日前までの予告または30日分以上の賃金支払いが必要です(同20条)。
懲戒解雇の要件
労働契約法15条によりますと、「労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする」としております。懲戒解雇に限らず、懲戒処分全般について上記の解雇権濫用法理と同様の規定が置かれております。つまり懲戒解雇でも同様に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が要求されます。さらに懲戒解雇は普通解雇よりも厳しい不利益を労働者に与えるものであることから、その手続も厳格なものとなります。具体的には、(1)問題行為の調査、(2)懲戒事由該当性の検討、(3)弁明の機会の付与、(4)懲戒解雇通知書の作成、(5)懲戒解雇通知、(6)その他離職票や源泉徴収票の交付などの手続きが必要とされております。特に弁明の機会は重要で、これを欠く場合は無効とされる場合もあります。
コメント
本件で福岡地裁久留米支部は、園長の報道機関への内部告発行為については当該法人の就業規則に抵触するものと認めるも、社会福祉法人内での内紛は社会的関心事であり、解雇に合理的理由はなく、社会通念上相当とは認められないとしました。社会的に関心を持たれている内紛に関して取材に応じる行為は解雇の客観的に合理的な理由とは言えず、またそれを理由に解雇することの妥当性も認められないと判断されたものと考えられます。以上のように普通解雇、懲戒解雇問わず、解雇には合理的理由と相当性が要求されております。さらに弁明の機会の付与なども必要とされ、抜き打ち的な解雇や、内部告発に対する報復的な解雇も無効とされる可能性が高いと言えます。解雇をする際にはそれぞれ要件の検討や手続きを十分に尽くしているかを慎重に確認しながら進めていくことが重要と言えるでしょう。
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