アウティング禁止条例増加、現在の規制状況について
2023/10/25 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
性的指向や性自認を本人の同意なく暴露する「アウティング」を禁止した条例が26の自治体で成立していたことがわかりました。この3年間で約5倍になったとのことです。今回はアウティングに関する法規制の現状を見ていきます。
事案の概要
共同通信の報道によりますと、地方自治研究機構は今年9月までに47都道府県の1741市区町村を対象に、性的指向や性自認などの文言を条文に含む条例を抽出し、アウティングに関する規定の有無を調査したとされます。10月1日の時点で少なくとも12の都道府県、26の自治体でアウティング禁止を明記した条例が成立していることがわかったとのことです。2020年の段階では5の自治体に留まっていたことから、3年で5倍以上に増加していたこととなります。アウティング禁止を明文化している法律は現状存在せず、自治体が先んじて人権擁護の取り組む現状が浮き彫りになったとされます。
アウティングとは
アウティングとは、ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーなどのいわゆる「LGBTQ」について、本人の了解を得ずに、それらの性的指向や性自認を他人に暴露することを言います。プライバシー侵害などの重大な人権侵害や性差別などの一因となり、近年様々な場面で問題視されております。この問題でのリーディングケースとも言える一橋大学同性愛暴露訴訟でも、「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害する許されない行為」として不法行為に該当することが明言されました(東京高裁令和2年11月25日)。また去年3月には、パート従業員の性的指向を上司が職場で暴露した事例で、労基署により初の労災認定がなされました。これを受け法令や条例にアウティング防止を盛り込む動きが活発化しております。
パワハラ防止法による規制
パワハラ防止法とは、正式には「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」とされ、旧雇用対策法の2019年改正でパワハラ防止措置が盛り込まれたことからそのように呼ばれるようになったと言われております。このパワハラ防止法のパワハラ防止措置は2022年4月1日から中小企業を含む全事業主で義務付けられており、厚労省が公表している「パワハラ防止指針」にもSOGIハラとアウティングに関する事項が盛り込まれております。SOGIとは「Sexual
Orienntation」と「Gender
Identity」を合わせたもので性的指向と性自認を意味します。LGBTQのような性的マイノリティではなく全ての人が持つ属性であると言われております。そしてアウティングはこのSOGIハラの一類型とされております。
性的少数者への理解増進法
性的指向やジェンダー・アイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律が今年6月に成立しました。同法では国や自治体、事業主の役割を明らかにし、性的少数者への理解と多様性に寛容な社会を実現することを目的としております(1条)。まず国や自治体については、国民の理解の増進に関する施策の策定や実施の努力義務が規定されております(4条~12条等)。そして事業主に対しては、情報提供や研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備などと共に国や自治体の実施する施策への協力が努力義務となっております(6条、10条)。また同法では施行後3年を目処に施行状況等を検討し必要な措置を講ずる見直し規定も置かれております。しかし直接的にアウティング等を禁止する条文は置かれておりません。
コメント
以上のように近年では性的指向や性自認に関して本人の同意なく他人に暴露するアウティングについて、人格権やプライバシー権侵害となるとする裁判例や労災認定の出現により、規制強化の動きが活発化しております。現状アウティングを直接禁止する法律は存在しておりませんが、各自治体では条例で禁止する動きが目立っており、すでに26の自治体でそのような条例が成立しております。今後労働関係法令などに組み込まれることも予想されます。社内でアウティングが発生した場合、労災認定や訴訟に発展するだけでなく企業イメージの著しい低下を招くことも考えられます。社内での周知や啓蒙を実施し、性的少数者も安心して働ける職場環境を模索していくことが重要と言えるでしょう。
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