ヤマト業務委託配達員が申し立て、労働組合法の救済制度の手続き
2023/11/02 労務法務, 労働法全般, 物流
はじめに
ヤマト運輸が業務委託の配達員に対し2024年で契約解除を通知している問題で、ヤマトに団体交渉を求めて救済申し立てをしていたことがわかりました。ヤマト側は「使用者」に当たらないとして拒否しているとのことです。今回は不当労働行為救済制度の手続きを見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ヤマト運輸は6月、ダイレクトメールなどの小型荷物の配達を日本郵便に移管するとし、それに伴いこれまで配達を担ってきた全国約3万人の「クロネコメイト」に対し、2024年で契約を解除する旨通知したとされます。一部のクロネコメイトが加入する労働組合「建交労軽貨物ユニオン」が10月31日にヤマトとの団体交渉を求めて東京都労働委員会に不当労働行為の救済申し立てを行ったとのことです。ヤマト側は労働組合法上の使用者には当たらないと拒否しているとされ、クロネコメイト側は貸与された携帯電話のGPS機能で配達部数やルートを記録・管理されていることから指揮命令下にあり労働組合法上の労働者に当たると主張しております。
不当労働行為救済制度とは
不当労働行為救済制度とは、憲法で保障された団結権等の実効性を確保するため労働組合法に定められた制度です。労働組合や労働者は使用者による不当労働行為を受けた場合に、労働委員会に対して救済申し立てを行うことができ、労働委員会は申立てに基づいて審査を行い、不当労働行為の事実があると求められる場合には使用者に対して復職や賃金差額の支払、組合運営への介入の禁止などの救済命令を出すこととなります。不当労働行為とは、労働組合法7条に列挙されている行為で、(1)組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い、(2)正当な理由のない団体交渉の拒否、(3)労働組合の運営等に対する支配介入および経費援助、(4)労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱となっております。
労働委員会による審査手続き
(1)都道府県労働委員会での手続き
労働者や労働組合による救済申立てがなされると、都道府県労働委員会は当事者の主張を聴き、争点や審問に必要な証拠整理等を行います。その後公開の審問廷で証人尋問等が行われ、公益委員による合議で事実認定を経て不当労働行為に当たるか否かを判断します。命令は救済命令と棄却命令があり、労働委員会の勧めで和解がなされることもあります。申立人は命令書の写しが交付されるまではいつでも申立ての全部または一部を取り下げることができます。
(2)中央労働委員会での手続き
労使双方は都道府県労働委員会の命令書または決定書を受け取った日の翌日から起算して15日以内に初審の都道府県労働委員会または中央労働委員会に再審査申立てをすることができます。ここでも上記と同様に調査、審問、合議を経て不当労働行為に当たるかを判断されます。その結果、再審査申立てに理由が無いと認めるときは再審査申立棄却、理由があると認めるときは初審命令変更の命令書が交付されることとなります。こちらでもやはり和解や取り下げは可能です。なお都道府県労働委員会、中央労働委員会の命令に対しては命令書の交付から使用者側は30日以内、労働者側は6ヶ月以内に裁判所に取消訴訟の提起をすることができます。
労働組合法上の労働者性
以前も取り上げましたがここでも軽く労働者性について触れておきます。労働組合法上の「労働者」に該当するかについては、(1)事業遂行に必要な労働力として事業組織に組み入れられていること、(2)契約内容について個別に交渉する余地がなく一方的に決定されていること、(3)支払われる委託料が実質的には労務の提供の対価としての性質を有すること、(4)業務の以来に応ずべき関係であること、(5)基本的に指揮監督下に労務提供を行っており、場所的/時間的にも相応の拘束を受けていること、で判断されます。逆に事業者性が認められる場合は労働者性を否定する方向に働きます。
コメント
本件でヤマト側は一貫してクロネコメイトは小型荷物の配達を委託している個人事業主であるとしてきました。これに対しクロネコメイト側は指揮命令下での労働や顕著な事業者性も無いとして労働者に該当すると主張しております。今後労働委員会で審問や合議により労働者性や不当労働行為該当性が判断されていきます。以上のように会社側が団体交渉を拒否した場合、労働委員会に救済申立てを行うことができます。救済命令には拘束力があり、違反した場合には1年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金が規定されております。労働者に該当するかについても、契約書の名目等に関係なく客観的・実質的に判断されます。業務委託を行っている場合は労働者に当たっていないか、交渉を拒否していないか、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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