紹介予定派遣・保健師に対する任天堂の雇用拒否を適法判断 ー京都地裁
2024/02/29 契約法務, 労務法務, 労働法全般, 労働者派遣法, エンターテイメント
はじめに
任天堂(京都市)で紹介予定派遣として働いていた保健師の女性2人が、直接雇用を不当に拒否されたとして、社員としての地位と損害賠償を求めていた訴訟で京都地裁は27日、請求を棄却していたことがわかりました。直接雇用への期待は法的保護に値しないとのことです。今回は紹介予定派遣について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の2人は2018年4月から任天堂で紹介予定派遣として勤務しておりましたが、勤務医と協力体制が構築できなかったなどとして同社から直接雇用を拒否されたとされます。また勤務医から無視されるなどのパワハラを受けたとし、2人は同社を相手取り社員としての地位の確認と、パワハラを受けた上、直接雇用を拒否されたことに対する損害賠償を求め京都地裁に提訴しておりました。原告側は派遣元ではなく、任天堂が面接をして採用決定を行なっており、派遣の形式は偽装で直接雇用が結ばれていたなどと主張していたとのことです。
紹介予定派遣とは
紹介予定派遣とは、派遣先の企業に直接雇用されることを予定した派遣を言います。派遣期間中に直接雇用契約を締結するかを派遣先と社員が検討し、双方の合意が得られた場合は直接雇用となります。人材紹介と派遣を合わせたサービスと言えます。派遣期間中は試用期間のような形ですが、あくまで派遣社員であることから、派遣先企業と直接の雇用関係はまだ無く、一般的な派遣社員と同様の待遇となります。この派遣期間が終了した段階で、双方が合意すればそのまま直接雇用となり、どちらか片方でも合意しなければ派遣契約終了となります。この合意による直接雇用への移行は派遣期間中でも可能です。つまり直接雇用を予定しているとは言え、かならずしも直接雇用に至るとは限らないということです。
通常の派遣との違い
通常の労働者派遣と紹介予定派遣にはいくつかの違いがあります。まず紹介予定派遣は上でも触れたように派遣先企業での直接雇用を前提としております。そのためその旨を事前に明示しておく必要があります。派遣社員も派遣先企業も将来的に直接雇用が予定されていることを同意した上で申し込むこととなります。そして派遣期間は通常の派遣では最長3年とされておりますが、紹介予定派遣では6ヶ月となっております。6ヶ月経過後、直接雇用についての協議の移るのが一般的です。派遣期間が終了するまでに協議して直接雇用に移行することも可能です。通常の派遣では派遣労働者を特定することや、就業前の書類選考、面接が禁止されておりますが、紹介予定派遣では将来的に直接雇用する可能性があることから、これらの行為が認められております。
紹介予定派遣のメリット・デメリット
紹介予定派遣のメリットとしては、人材派遣と人材紹介を合わせた性質から、人材会社としては派遣中の継続的な収益と、社員への教育のコストを抑えることができるとされます。派遣先企業としては最長6ヶ月の労働を見ることができることから、面接や書類選考ではわからない人柄や適正を判断することが可能です。派遣社員としても実際に働いてみなければわからない職場の雰囲気や自身の適正を体験した上でその会社で働き続けるかを判断できます。一方で派遣先企業としては募集・採用のコスト削減ができるものの、実際に直接雇用が決まった場合、派遣会社に支払う紹介手数料の負担がデメリットとなります。また安くない紹介手数料を支払ったにもかかわらず、直接雇用した派遣社員が長く働くことなく辞めてしまうというリスクや既存の正社員との軋轢などもデメリットとして指摘されております。派遣社員にとっても、直接雇用が予定されているとは言え、必ず直接雇用されるとは限らず、また直接雇用といっても正社員ではなく契約社員として採用される場合もあり、通常の派遣社員よりも不安定な地位に立たされるといったリスクも挙げられます。
コメント
本件で京都地裁は、紹介予定派遣について「直接雇用に至らない場合があることを制度上当然の前提としている」とし、任天堂が直接雇用を拒否したことは不合理とは言えないとしました。一方で産業医によるパワハラについては一部認め、会社側に20万円の賠償を命じました。以上のように紹介予定派遣は必ずしも直接雇用されるとは限らず、直接雇用を拒否しても直ちに違法とはならないということです。また上記のように紹介予定派遣は派遣と人材紹介の中間的な制度で派遣会社、派遣先会社、派遣社員のそれぞれにメリット・デメリットがあります。それぞれの制度の特徴や性質、メリット・デメリットを正確に把握して、自社に合った制度を選択していくことが重要と言えるでしょう。
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