上司にパワハラした部下を懲戒処分/「逆パワハラ」は、なぜ起こる?
2024/06/07 労務法務, ハラスメント対応法務, 労働法全般
はじめに
近年、上司に対するパワーハラスメント、いわゆる「逆パワハラ」が増えています。
5月28日、奈良県の職員が当時の上司に逆パワハラを繰り返したとして、懲戒処分を受けました。職員は、「私よりはるかに下級の下級のくず以下」などというメッセージを5ヵ月間で約100回送っていたということです。
また4月には、高知県の消防署の男性が、職場の飲み会で上司に何度も飲食代を支払わせたなどとして停職12カ月の懲戒処分となりました。
これらの二つの事例から、今後どのように逆パワハラと向き合うべきか、考えていきます。
「ポンコツ」奈良県職員が上司にメッセージ送る
報道などによりますと、49歳の職員は2023年5月から10月にかけて、当時の上司に対しLINEなどでメッセージを合計101回送っていたということです。
内容は「偽善者はいらない」「私よりはるかに下級の下級のくず以下」「見た目通りのポンコツ無能給料泥棒」など、上司を誹ぼう中傷するものでした。
県が職員に聞き取り調査を実施したところ、職員は「仕事の悩みがあった。上司に対しても不満があった。プライベートでもストレスがあった」と説明したということです。
高知県人事課は職員の行為が上司へのパワハラにあたると判断し、2024年5月28日付けで減給10分の1(2ヵ月間)の懲戒処分としました。
上司に飲み代24万円分を負担させる
また、高知県の消防署では、50代の消防指令補の男性が、上司へのパワハラを行ったとして、停職12カ月の懲戒処分となりました。
男性は、2022年1月から2023年4月までの期間、同じ署に勤務する上司に対して、「わかってるよな」などと支払いを強要し、自分や他の職員の飲み代として8回分、計約24万円を負担させたということです。
この指令補の男性は、その他にも、
・上司がいない飲み会で、飲食代をつけ払いとし、後日、上司に支払いを要求した
・消防署メンバーでのボウリング大会で、急遽欠席となった上司に対し、実際にはキャンセル代は発生していなかったにもかかわらず、後日、「ボウリング大会のキャンセル料1万円払え」と要求した
といったパワハラ行為を行なっていたといい、上司はやむをえず支払いを行っていたということです。
上司は、こうした逆パワハラによる精神的苦痛により、通院していたと報じられています。
また、男性は他の複数の職員に対しても、飲み会後の送迎を強要したとみられています。
一連の問題が発覚したきっかけは、2023年末に、署内で業務方針を巡るトラブルが発生したことでした。消防本部がトラブルに対処した際に、他のトラブルがないか確認したところ、男性の行状が発覚。パワハラと認定されました。
男性は行為を認め、上司らへ謝罪し、返金すると約束したということです。
消防本部は今回のパワハラが起きた理由として、「自治体を越えた人事異動がなく、一個人に権力が集中したことが一つの原因」と分析しています。
逆パワハラの要件について
一般的に、「パワハラ」は上司から部下に対して行われるというイメージがあります。そのため、当事者の職位等によって、「パワハラ」該当の有無が判断されると考える人も多いのではないでしょうか。
しかし、実際には、当事者の職位等ではなく、あくまでも、特定の要件を満たしているか否かで判断されることになります。そのため、要件さえ満たしていれば、部下から上司に対するものであっても、「パワハラ」として認められることになります。これが、いわゆる「逆パワハラ」と呼ばれるものです。
その意味で、逆パワハラとパワハラは、要件を同じくしているといえます。
そもそも「パワハラ」は、職場において行われる、以下の3つの要素をすべて含む行為を差します。
①優越的な関係を背景としたもの
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの
上述したように一般的には、上司・部下の関係では、上司が部下に対し、①「優越的な関係」を有していると考えられがちですが、例えば、部下の方が、上司よりも業務の経験・知識があるといった場合には、事実上、部下の方が上司に対し、①優越的な関係を有していると判断されることがあります。
また、上司が部下に対し、通常の注意指導をしたに過ぎないにも関わらず、部下が「パワハラだ」と騒ぎ立て批判したような場合には、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動と認定される可能性があります。
コメント
昨今、ニュースやSNS等でパワハラが取り上げられる機会が増えています。それもあってか、上司が、自身の行為を「パワハラ」と糾弾されることをおそれすぎて、適切な部下の指導・管理ができなくなってっているといいます。そして、それが逆パワハラ横行の原因となっていると指摘する声もあります。
まずは、パワハラが、当事者の職位等に関わらず成立することを社内で周知したうえで、立場に関わらず、他人に対して、相手を尊重し思いやりながら接することの重要性を伝えていく必要があります。
そのうえで、職位を問わない定期的なヒアリング(面談)の設定、相談窓口の設置など、パワハラ防止と早期発見のための具体的な施策を実行していくことが重要になります。
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