性同一性障害の人は嫡出子が持てない?
2012/01/28 法務相談一般, 民法・商法, その他
性同一性障害の人は嫡出子が持てない?
性同一性障害のため、戸籍を女性から男性に変更した東大阪市の会社員男性(29)とその妻(30)が、二人の間にもうけた男児につき、出生届を提出した際、同男児を嫡出子(法律上の夫婦の子)として認めなかったのは不当だとして、東京家庭裁判所に不服を申し立てることを決めた。男児は、現在2歳になるが、現在も戸籍がない状態が続いている。
【事案の概要】
2008年3月 男性は性同一性障害を理由に戸籍を変更、戸籍上も男性となった上で、女性と結婚。翌年、第三者からの精子提供を受け、人工授精により男児をもうけた。
男性は、当時居住していた兵庫県宍粟市に嫡出子として同男児の出生届を提出。しかし、同市は、「生物学的に親子関係が認められない」として、出生届を受理しなかった。その後、男性は東大阪市に転居後、大阪市に出生届を提出したが、またもや受理されなかった。
そこで、男性は本籍地を東京都新宿区に移し、今年1月27日に東京都新宿区役所に出生届を提出。区役所職員は、「婚外子である“非嫡出子”として書き直して下さい。応じない場合は区長の権限にて“非嫡出子”として戸籍に記載します」と対応したという。
※1 嫡出子
婚姻関係にある男女との間で生まれた子。親権は父母が共同で行い、父母の氏を名乗る。
※2 非嫡出子
婚姻関係にない男女との間で生まれた子。親権は原則として母が単独で行い、氏も原則として母の氏を名乗る。なお、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1である。もっとも、あくまでも嫡出子と相対的に比較しての話であり、父母の間に非嫡出子しかいない場合には、法定相続分の差異の問題は生じない。
※3 嫡出制度の趣旨
嫡出制度の趣旨の第一は、出生した子の成育環境の保護である。これは、子の育成には父母両方の親がいることが望ましいという考えから、婚姻中の男女間の子には認知によらずに当然に親子関係を成立させ、父母に子を育てる義務を負わせる一方で、非嫡出子の法定相続分に不利な規定を設けることで、夫婦という法的に安定した立場で子をもうけることを推奨している。
出生届の審査
出生届には、子の性別、嫡出子か非嫡出子かの別、出生年月日・日時・場所、父母の氏名及び本籍等を記載しなければならない。
役所では、上記事項が記載された出生届を形式審査する(逆に言うと、形式審査以上の審査は行わない)。形式審査とは、出生届の記載から、その出生届が虚偽のものか否かを判断する審査である。
なお、性同一性障害を理由に戸籍の変更が認められた者の戸籍には、「戸籍上の性別が変更された旨」の記載がされている。そのため、形式審査のみで、今回の男性の男児が、生物学上、男性の子でないことがすぐに役所にわかってしまったというわけである。
雑感
男性は「一般の夫婦では、提供精子によりもうけた子が嫡出子になっているのに、なぜ性同一性障害だと同様に嫡出子と認めてもらえないのか」と主張している。しかし、残念ながら、法的な観点のみで見ると、役所の対応は現時点では、いずれも誤りのないものである。
役所が形式審査により出生届の審査を行う以上、出生届の文面から、男児の生物学上の父が、別の者であると判明した場合は、虚偽の届出として受理を断らざるを得ないのである。提供精子により子をもうけた一般の夫婦では、出生届上、別の生物学上の父が存在することが判明しないことから、届出を受理しているに過ぎないのであり、なんらかの記載により別の生物学上の父が存在することが判明する場合には、今回のケースと同様に受理しないことだろう。
とは言え、法は、元来、国民の幸せのために存在するものである。誰も幸せにしない法運用など無意味でしかない。もちろん、性別変更を行った者の子を嫡出子と認めることで多大な弊害が生じるのであれば、そう話は単純ではないのであろうが、先述した嫡出制度の趣旨を考えても、嫡出子と認めることの弊害は小さいのではないだろうか。性別変更を行った者とその配偶者との間でもうけた子だからと言って、子の成育環境が悪いものになるとは思えないからだ。
政争などやっている暇はない。先端医療により生まれた子と親の関係を決める法整備の迅速化が求められる。
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