ドワンゴ、入社試験受験料に対する行政指導に見解発表
2014/03/05 労務法務, 労働法全般, その他
事案の概要
ニコニコ動画を運営するドワンゴが2015年度の新卒入社試験より導入・実施していた受験料制度に対し、厚生労働省より行政指導を受けたとの報道について、同社の見解を発表した。
同社では、2015年度新卒入社試験より「本気の方だけ受験してほしい」として、首都圏の受験者を対象に入社試験のエントリー時に2,525円を徴収する受験料制度を導入・実施し、集まった受験料を独立行政法人日本学生支援機構へ寄付すると発表していた。
厚労省の行政指導の内容としては、職業安定法第48条の2に基づき、来年以降の受験料徴収の自主的な中止を求める旨の「助言」を口頭のみで受け、書面等の受領はなかったとしている。
厚労省の説明としては、同様の取り組みが社会的に広がるなど、お金を払える人だけが採用試験を受けられる状態になってしまうことを大変危惧していること、受験料の徴収が職業安定法第39条の「報酬」にあたるかどうかについては、「報酬」の位置付けが明確でなく、現時点で違反性、違法性が認められているわけではないが、来年度以降の社会的な影響や問題意識の広がりに応じて法改正や規制強化をせざるを得ない状況になるかもしれないことなどが挙げられている。
これを受けて、同社は、受験料2,525円が収入格差により就職の機会を奪うほどの高額であるとは認識していないこと、交通費などの経費負担が大きい地方に在住する学生からは徴収せず、首都圏の受験生からのみ受験料を徴収するのは、格差を多少なりとも軽減する狙いとしている。
その上で、応募者の評価にじっくりと時間をかけられるようになったこと、応募者の質が向上していると感じていることから、「施策は成功しており、現段階では来年度も受験料制度を継続したいと考えて」いるとし、施策評価を行い来年度の実施について最終判断すると同時に、「厚生労働省と継続的な意見交換等を行い、本件について適正に対応して」いく予定との見解を示した。
職業安全法第39条
職業安全法第39条は、募集主又は募集受託者は、募集に応じた労働者からその募集に関していかなる名義でも報酬を受けてはならないとしている。
労働者募集業務取扱要領によれば、ここでいう「募集」とは、「労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人をして労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することであり、採用試験は募集に応じた者から雇用することとなる者を選考するために行うものであるため、募集とは別の行為」とされている。
このため、「採用試験の手数料を徴収することは法第39条の報酬受領の禁止には該当しない」とされている。
コメント
本件の受験料は、「本気の方だけ受験してほしい」という制度目的や2,525円という金額の根拠がおそらくドワンゴが運営するニコニコ動画の名前にあること、首都圏の学生のみから徴収することなどから、報酬受領禁止に該当しないとされる手数料には当たらないと考えられる。一方で、受験料の徴収が説明会時ではなく、入社試験のエントリー時に求められており、「募集に関し」と言えるかどうかも検討の必要がある。
「報酬」の定義は明確でなく、厚生省の行政指導も職業安定法第39条に違反するか否かだけではなく、同様の取り組みが社会的に広がることで、収入格差により就職の機会が奪われる可能性があり、その結果、法の趣旨である労働力の需要供給の適正かつ円滑な調整が妨げられることを考慮したものであると思われる。
本件は、企業の採用にかかるコンプライアンスにつき、参考になるケースである。
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