マタハラ指針への対応について
2016/11/29 労務法務, 労働法全般, その他
1 はじめに
厚生労働省は「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成28年厚生労働省告示312号、及び「子の養育又は家族介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成21年厚生労働省告示509号・最終改正平成28・8・2厚生労働省告示313号、)〈以下、両者を「マタハラ指針」と言う〉を整備し、各種の措置を講ずる義務を定めました。
派遣社員の約半数、正社員の2割以上が経験しているという調査もあるマタハラについてどのような対応が求められているのでしょうか。
※参照
「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」
「子の養育又は家族介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」
「マタハラ」を派遣社員の半数、正社員も2割が経験 「迷惑」「辞めたら」
2 マタハラとは
マタハラとは、マタニティハラスメントの略で、働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、妊娠・出産・育児などを理由とした解雇や雇い止め、自主退職の強要で不利益を被ったりするなどの不当な扱いを言います。マタハラはセクハラ(セクシャルハラスメント)、パワハラ(パワーハラスメント)とともに、働く女性を悩ませる3大ハラスメントの1つとされています。
マタハラ対策の法律上の根拠条文としては、従来は、労働者に対し妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取扱いをしてはならないことが定められていた男女雇用機会均等法9条3項、育児介護休業法10条にとどまっていましたが、平成28年3月に男女雇用機会均等法11条の2、育児介護休業法25条が新設・改正されて、事業主が「適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を講じなければならないことが明示されました。上記のマタハラ指針はこれらの規定を具体化するものです。
3 マタハラ防止措置の対象となる言動について
マタハラ指針では、まずマタハラ防止措置の対象となる言動として、①制度等の利用への嫌がらせ型と、②状態への嫌がらせ型の2種類があるとしています。
まず、①制度等の利用への嫌がらせ型については、
(イ)妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
(ロ)坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
(ハ)産前休業
(ニ)軽易な業務への転換
(ホ)変形労働時間制がとられる場合における法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
(ヘ)育児時間
などの制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるものであるとしています。
また、②状態への嫌がらせ型については、
(イ)妊娠したこと
(ロ)出産したこと
(ハ)坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと、又はこれらの業務に従事しなかったこと
(ニ)産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと
(ホ)妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと、若しくはできなかったこと、又は労働能率が低下したこと
といった妊娠等をしたことに関する言動により就業環境が害されるものであるとしています。
4 マタハラ防止措置の内容について
事業主が講ずべきマタハラ防止措置の内容は5つあります。
それは、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③マタハラの原因に係る事後の迅速かつ適切な対応、④マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置、⑤①〜④とあわせて講ずべき措置です。事業主は平成29年1月1日までに①〜⑤の措置を講ずる必要があります。
※参照
妊娠・出産等に関するハラスメントの防止措置の内容について
5 総括
マタハラが蔓延した社会であると、出産を控える方が増加する可能性があり、少子高齢化がさらに進行するおそれがあります。さらに、マタハラが蔓延した職場環境であると他のハラスメントも多く行われるおそれがあるとも言われており、職場環境の悪化につながります。このような事態を防ぐためにも、厚生労働省によるマタハラ指針の整備を機に全国の事業所でマタハラ防止措置が確実になされて女性の働きやすい環境が整備されることが望まれます。
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