600人解雇で地位確認申立、コロナと労務対応について
2020/04/22 労務法務, 労働法全般
はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化で運転手約600人を一斉解雇したタクシー会社の男性従業員が地位確認などを求める仮処分を東京地裁に申し立てていたことがわかりました。コロナウイルスが収束したら再雇用する方針とのことです。今回はコロナウイルスによる事業縮小に関する労務対応について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、タクシー事業を展開する「ロイヤルリムジン」(江東区)はコロナウイルス感染拡大による業績悪化により600人あまりの乗務員を解雇し、事態が収束したら従業員の希望により再雇用する方針を発表しました。7日から順次、各乗務員に通達しているとのことです。同社の担当者は休業手当を支払うよりも、一旦解雇して失業手当を受けてほうが乗務員に不利にならないと判断したとしています。労働組合によりますと、同社は雇用調整助成金の申請は行っていないとのことです。
コロナウイルスと賃金
コロナウイルスの影響により会社が休業したり従業員を自宅待機にする、またはシフトを削減する場合に従業員に支払う賃金はどのようになるのでしょうか。業績悪化等により会社が休業を決定した場合、会社側の「責に帰すべき事由」によって従業員は就労することができないことから原則として賃金全額の支払いが必要と考えられます(民法536条2項)。自宅待機やシフト削減の場合も同様と言えます。また現在政府によって非常事態宣言が出されており、各自治体からは休業要請などが出されている場合があります。この場合には会社側に帰責性は無いと判断される可能性もありますが、休業手当分である60%の支払いが必要となってくると言えます(労基法26条)。
コロナウイルスを理由とする解雇
解雇要件については先日も取り上げましたがここでも簡単に触れておきます。コロナウイルスの影響による業績悪化で従業員を解雇する場合は一種の整理解雇に該当します。整理解雇をするための要件は、①人員整理の必要性、②解雇回避努力、③被解雇者選定の合理性、④手続きの妥当性とされております(東京高裁昭和54年10月29日)。解雇の必要性や補償などを丁寧に対象従業員に説明して助成金の利用などによる解雇回避の努力などをしたかが判断されることとなります。また実際に解雇となるにしても従業員には30日以上前に解雇予告をするか解雇予告手当を支払う必要があります(労基法20条1項)。
失業保険について
雇用保険に加入していた場合、その加入期間や年齢などに応じて失業保険が給付されることとなります。年齢にもよりますがだいたい基本手当日額は6000~8000円前後と言われております。解雇された労働者は会社から離職証明書を受け取り、職業安定所で所定の手続きをすることによって給付されるようになります。これにより転職先が決まるまでの求職期間中の生計を維持することができるようになります。再就職のための支援金という意味合いもあるということです。
コメント
本件でロイヤルリムジングループはコロナウイルスの感染拡大による業績悪化を理由に従業員600人を解雇するとしております。全国的に自粛が求められ、急激に業績が悪化している以上解雇の必要性は認められる可能性はあるかもしれません。しかし現在厚労省も呼びかけている雇用調整助成金も検討されることなく、一斉に解雇との決定をしていることから解雇回避の努力や人員選定の合理性が否定される可能性は高いと思われます。また失業保険も上記のとおりあくまでも再就職活動のための支援金であることから再雇用するまでのつなぎとして、あるいは休業手当の代わりとして利用することはできないと考えられます。以上のようにコロナウイルスの影響で事業を休止したり従業員の自宅待機を余儀なくされている場合でも原則として賃金の支払いは避けられないと言えます。また解雇や雇止めも簡単には認められないと考えられます。助成金や各自治体の支援を利用して、最大限解雇回避を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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