セクハラ労災訴訟で、国側が業務上の病気と認める
2010/11/19 労務法務, 労働法全般, その他
道内の企業でセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)を受け精神疾患を発症したとして、道内の40代の女性が、国の労災保険不支給処分の取り消しを求めた行政訴訟の第4回口頭弁論が、今月10日、東京地裁であった。今回の行政訴訟は、派遣先の上司に、しつこく交際を迫られて精神疾患にかかったのに、労働基準監督署が業務上の病気と認めず労災認定しなかったのは不当として、北海道の元派遣社員の女性が国を提訴した初の「セクハラ労災訴訟」として注目を集めていた。その中で、国側が一転して、判決を待たずに、「上司のセクハラが主要な原因で発症した」として、業務に起因した労災と認める書面を提出し、業務による病気であることを認めた。
国が同日、東京地裁に提出した準備書面によると、函館労基署は業務による発症とは認められないと決定したが、原告側が裁判に提出した資料や、提訴後に国が収集した記録にもとづいて、国はこれまでの主張を改めたという。
原告側によると、元派遣社員は2001年に派遣された道内の大手企業で、上司から携帯メールや言葉で何度も誘われ、断ると中傷や無視にあって体調が悪化、06年、退職に追い込まれた。生活に困り、07年に労災申請したが認められず、労働保険審査会への再審査請求も09年、却下された。争点がなくなったことで、今後は働いていた状況の調査などによる休業補償の範囲の認定などに移る。
原告側の弁護士によると、セクハラ1件の被害者が労災保険不支給を不服として提訴した訴訟で、国が労災を認めるのは極めて異例のことだ。
労災保険の休業補償給付にも応じる意向であり、国は女性の就労状況などを調べ、支給額を決める方針である。休業補償などが認められれば、原告側は訴えの取り下げも検討とのことだ。
労災というと、一般的に過酷な労働環境や、長時間の労働による肉体的な疲弊に起因するものを想像しがちである。そういった一般のイメージも手伝ってか、パワハラのように精神的苦痛に起因する場合には、労災の認定が非常に困難となっている。
しかし、セクハラのように精神的な苦痛に起因して、被害者に深刻な影響をもたらす場合もあるのは当然である。そのことからすれば、セクハラの労災認定は当たり前のことであるといえるだろう。 今回の国側の判断が、他の事件にも影響を与えることになれば、こうした状況にも変化がでてくるかもしれない。労働者にとってよい労働環境が、構築されていくことを願うばかりである。
男女雇用機会均等法11条:事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
(基労補発第1201001号)
セクシュアルハラスメントによる精神障害等の業務上外の認定について
セクシュアルハラスメントが原因となって発病した精神障害等は、1999年9月14日付け基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(以下「判断指針」という。)により、心理的負荷を評価した上で、業務上外の判断を行うこととしてきたところであるが、判断指針に当てはめるセクシュアルハラスメントの捉え方や、心理的負荷の強度の評価において一部に統一が図られていない事例がみられるところである。 このような状況を踏まえ、判断指針に当てはめるセクシュアルハラスメントの概念、内容、判断指針による評価に際しての留意点について、下記のとおり取りまとめたので、今後の扱いに適正を期されたい。
記
1 セクシュアルハラスメントを職場における業務に関連する出来事の一類型としていることについて
判断指針別表1の「具体的出来事」は、職場において通常起こりうる多種多様な出来事を一般化したものとして明記しているところであるが、そのひとつとして「セクシュアルハラスメントを受けた」ことを明記しているのは、職場の上司、同僚、部下、取引先等との通常の人間関係から生じる通例程度のストレスは出来事として評価すべきではないが、セクシュアルハラスメントなど特に社会的にみて非難されるような場合には、原則として業務に関連する出来事として評価すべきで
あるとの「精神障害等の労災認定に係る専門検討会」報告に基づくものである。
2 判断指針別表1における「セクシュアルハラスメント」の概念、内容
判断指針別表1における「セクシュアルハラスメント」については、改正男女雇用機会均等法に基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指針(1998年労働省告示第20号)」(以下セクシュアルハラスメント指針という。)等により示されている概念・内容と、基本的には同義である。
具体的には、告示では、「職場におけるセクシュアルハラスメント」とは「職場において行われる性的な言動に対する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により就業環境が害される」こととされ、このうち、「性的な言動」とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指し、「性的な内容の発言」には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等が、「性的な行動」には、性的な関係を強要す
ること、必要なく身体に触ること、わいせつな図絵を配布すること等が、それぞれ含まれ、また、1998年6月11日女発第168号通達により「性的な行動」として、強制わいせつ行為、強姦等が含まれるとされている。
3 「セクシュアルハラスメント」が原因となって発病した精神障害等の判断指針による評価について
精神障害等の心理的負荷の強度の評価に当たっては、「心理的負荷が極度のもの」についてはその出来事自体を評価し、それ以外については、心理的負荷の原因となった出来事及びその出来事に伴う変化等について総合的に評価することとしている。
したがって、「セクシュアルハラスメント」については、事案の性質によっては「心理的負荷が極度のもの」と判断される場合には、その出来事自体を評価し、業務上外を決定することになるが、それ以外については、出来事及び出来事に伴う変化等について総合的に評価する必要があり、その際、「出来事に伴う変化等を検討する視点」の項目中、特にセクシュアルハラスメント指針で示した事業主が雇用管理上の義務として配慮すべき事項について検討することになる。
具体的には、「セクシュアルハラスメント」防止に関する対応方針の明確化及びその周知・啓発、相談・苦情への対応、「セクシュアルハラスメント」が生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応等に着眼し、会社の講じた対処・配慮の具体的内容、実施時期、さらには職場の人的環境の変化、その他出来事に派生する変化について、十分に検討の上、心理的負荷の強度を評価する必要がある。
→この通知により、
(1)セクハラは労災認定の時、業務に関係する出来事として評価対象になる
(2)被害が極端に大きいセクハラでなくても、起きた後の職場の対応が適切でない場合は認定されることがある
こととなった。
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